書具よもやま話 36
筆の寿命②
羊(山羊)を使った羊毫筆は、他の毛で作った筆よりも寿命が長いようです。使い方にもよりますが短くても数年。長いものは数十年にも及び、使い続けることができます。まさに筆の王様と呼べると思います。しかしながら羊毫筆の最大の欠点は、扱いにくいというか、相当量使わないと手に馴染まないという難儀なところがあります。
羊毫筆は山羊の色々な部位の毛を使って作るのに対して、兼毫筆は色々な種類の動物の毛を使って作ります。根元には豚などの硬い毛を使うことで弾力の調整をして作ることができますので、書き手の好みに合わせた(すぐに使えるような)筆を作ることができます。特にここ数年の書道界(主として読売展系は)羊毫ではなく、兼毫を使った作品が主流ですから、書源お薦めの筆もほとんどがこの傾向の筆です。兼毫の良さは羊毫ほど筆の動き方に不規則性が少ないことから、古典を基調にした創作作品を作っていくのには向いていると思われます。ただ問題は『すぐに使える』ということです。筆を作る立場からすると、羊毫のように少々長い目で見ていただけませんから、一瞬で判断されるより書きやすい筆を作る傾向になります。毛が硬めの兼毫ですから、毛切れが早いこともあり、寿命が短くなるという弱点もあるのです。
写真右は毛が切れだし、揃ってきたもの。左は使いはじめて間もないものです。右は20年程前、約3カ月しっかり使いました。当時の価格で3万円の高級筆です。あまりのはかない消耗具合に財布の中身を見た思い出が甦りました。