書具よもやま話 34
紙は寝かせましょう
「紙はねかせましょう」といいますと、「あたりまえでしょう」とおっしゃる方と、「それなんですか」とおっしゃる方。ちょっと前ならこんなこと書かなくても良かった常識問題集みたいな話ですが、それでも紙は寝かしたほうが良いというお話。
昔の紙は使う原料がシンプルであったこともあり、極端な話、漉きたての紙は水につけると元に戻る。ほど不安定で使いにくい物だったのです。対処法としては、今年使う分と少なくとも三年先に使う分。もっと言えば(予算があれば)10年先に使う分を買って寝かせ(保管)ておいたのです。この寝かせた紙の変化の素晴らしさはというと、それは使った人しかわからないことですが、全くの別物に変化するのです。まさに紙が時間という栄養を吸込んで成長していくような感覚です。
しかしこれは少し昔の話。今は住宅事情なのか予算の問題なのか、考え方が変わったのか。沢山買っておいておこうという方は本当に少なくなりました。紙を作る側もそれに合わせて漉いてすぐに使えるような紙を作るべし。としたものですから、ますます買い置きする人は少なくなります。おかげで技術革新はしました。しかし本当は違うのです。書きやすくなったとはいえ、やはり漉たては漉たての紙の能力しか出せないのです。
3年とはいいません、せめて1年。いや半年。少し先に使う分を買い置きしてはいかがでしょう。筆を下した時のタッチが必ず違うものになり、作品の微妙な出来栄えに効果があがること確実です。
1992年8月購入。こうなるとかえって使えません。