書具よもやま話

書具よもやま話 28

鈐印(ケンイン) ⑥ ―肌理を整える―


一般的に化粧をしない男性には実感しないことでしょう。いや、今の若い男性諸氏は非常にお肌を気にするとか。愚妻は毎日パックやマッサージと一日の大半を鏡の前で意味もなく過ごし、エステに行きたいとまでいう始末。なんと恐ろしい。まあ老化は誰にでもおこることですから永遠の課題としか言いようがありませんがねぇ。反対に10歳になる娘などは化粧品コーナーでお肌に顕微鏡カメラを当てると、映る画像が「ベストなお肌」と展示してあるサンプル写真と全く同じです。愚妻は「私も昔はこうだったのよ」などと負け惜しみを言う始末。飽くなき美への追及は尽きないようです。


 さてここからが今月のお話。印に印泥を上手く付けても、敷物を上手くしても、はたまたジャストミートしたように紙面に印が着地したとしても、お肌(しつこい性格ですすみません!)いや、紙面の肌理が悪いと上手く印影が出せないのです。「え、紙にベースを塗るの?」ですって。そんなことはできません。ただ、仮名料紙で「具引き」といわれる種類の紙はベースのような処理をし、絵柄を入れた加工用紙が使われますから、全く無いわけではありませんが、一般的には特別な加工を施していない素紙と呼ばれる紙が大半です。一見それほどザラザラに見えない書道用紙ですが、筆が引っかかって独特な擦れが出るように表面は結構毛羽立っているのです。紙面は相当荒れ気味なのです。


 そこで最も簡単にできるお手入れは、印を押そうとする周辺を印泥の蓋で軽く擦って、紙の目を潰すのです。コツはテーブルなどの固い板の上で、あまり力を入れずに擦るだけで良いのです。え、なんですって「愚妻のお肌も蓋で・・・」そんな勇気はございません。

写真1
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