中国よもやま話

中国よもやま話 77

― 中国食べ歩き ‐古鎮めぐり① ―


 訪中する主たる目的は、本業の筆墨用品の買い付けや打ち合わせですが、回数を重ねるごとに何らかの楽しみも必要になります。私の知人などは「毛沢東のバッチ」の蒐集が趣味と言いますし、愚息はお茶三昧。それ以外に飲み食いが何より楽しいなど、人それぞれですが、私は創業当時取引していた、紙漉き工場があった田舎街を訪ねているうちに、「古鎮」なるものに興味が湧き、ガイドブックを買い込み、訪中時には必ず散策するようになりました。人によっては「古鎮巡りとは物好きな」と言いますが、そこが好き者の病。どうしても一旅、一カ所は古鎮の匂いがないと締めくくれないのです。

 一口に古鎮と言っても、運河を中心に広がった水郷古鎮から、山村部に存在しているもの等々。いろんなものがあります。でも本当は何も手を付けていない単なる集落ほど、生活の匂いが感じられ最高なのです。

 色々な経緯でかれこれ五回も訪ねたのが安昌古鎮です。浙江省の紹興から北西10㌔ほどの所にあります。説明によると一千年以上の歴史があるそうで、典型的な江南水郷です。安昌は明清時代の師爺を多数出した街としての記録も残ります。全長2㌔弱の石板敷きの老街に入り込むと、中国時代劇の一場面かと錯覚し、一気に引き込まれてしまいます(写真1)。魯迅の小説「社戯」の世界がひろがります。腸詰、骨董品、電化製品、床屋等々。通りで食事や麻雀をする人々。まさに地元住人の活力があふれ、生活の匂いが漂います(写真2、3)。
老街に沿うように水郷古鎮になくてはならない川があります。あちらこちらにある形の違う石橋の下を、烏篷船が行き来しますが、水面に映し出される老街と重なり合い、何とも言えない景色が広がるのです(写真4)。

安昌古鎮に5回も行ったのにまた行きたくなる。そんな古鎮は(もう一つあるのですが)そうそうありません。それは規模がそれ程大きくないことと、老街が本当にミステリアスなこと。何よりあまり観光客が来ない古鎮だからでしょうか。四季それぞれ訪ねましたが、やはり早春と秋がより風情を増すことでしょう。



写真1

写真1
朝の通り。
写真2

写真2
通りにある床屋。
写真3

写真3
食事の後は麻雀。
写真4

写真4
手漕、足漕。烏蓬船の船頭。