書具よもやま話

書具よもやま話 30

鈐印(ケンイン) ⑧ ―おしめしてます?―


私カレーうどん大好きです。二日酔いの朝からでも食べられるぐらいに。ただやっかいなのが、良く飛びますよね、黄色いのが。十分気を付けているつもりでも、なぜかどこか汚してしまうのです。場違いな店で食事をするときもよくこの手の粗相をします。いい場所に出かけるので、買ったばかりのネクタイなんかしていて、飛ばしてしまうと料理の味どころか、汚れたネクタイのことばかりが気になって、全く楽しくないことになります。ナプキンをきちっと使えばいいんですが、どうも苦手なんです。何しろ「早めし、はや○○、芸の内」で育ったものですから。


 さて、今回お話しするのは「印のおしめ」です。仕事柄色々と作品をお預かりさせていただきます。作品は必ず一点ずつ汚れなどを確認していきますが、カレーが、いやいやいろんな汚れが付いています。はっきりと分かるものもありますが、ちょっと見ただけでは分からないものもあります。裏打ちをするとほんのかすかな汚れもクッキリ見えてしまうので要注意が必要なのです。白い作業台の上で作品の裏表をしっかり見るのです。汚れの中で二番目に多いのは下敷きに残った墨汚れ。作品の裏側に擦ったようについています。一番はなんといっても印泥の汚れです。かすかなものを入れると10点あれば8点汚れているぐらいです。「そんなはずはない」とおもわれるでしょうが、そんなはずがあるのです。印を押す→押した印を紙で拭く→そのとき手に付く→その手で作品を再度持つ→そして作品に付く。これはカレーの汚れと似ています。気を付けていてもどこか汚してしまう。


もう一つは、押した印の上に汚れ写り止めのおしめ(入り紙)をせずに、たたんで汚れてしまったという場合。印泥は押してから時間が経っても擦れたりすると付くので、必ず入り紙をしておくと、ネクタイいや、作品を汚さずにすみます。印の上に小さな入り紙をするより(書きつぶしの紙など)相当大きな紙を挟んでおいたほうが安全です。
早めし・・・せずに、作品の最終扱いは、慎重かつ丁寧にが大切です。

(つづく)